2015年12月26日土曜日

TDDF (Twisted Double Delta Flag) Antennaの経験

 今年(2015年)4月にシエスタ氏がアンテナ・技術掲示板に「TDDF(Twisted Double Delta Flag)の実験について.pdf」をアップされました。1週間限定での公開でしたのでその原文を目にすることはなかったのですが追試された皆さんの評判が非常に良いことから先日(2015年11月21-22日)のびわ湖ペディションで遅ればせながらTDDFアンテナを試してみることにしました。

 -TDDFアンテナとはどんなアンテナか-
図1 TDDFアンテナ模式図
 図1に今回設置したTDDFアンテナの模式図を示します。2つのデルタ型のループがねじれた状態で連結しており給電部にマッチングトランス、遠位端には終端抵抗を設置します。
 ペディションで通常使用するビバレージアンテナでは終端抵抗側に鋭い指向性を有しますがTDDFアンテナでは指向性がビバレージとは逆になり給電点側にフロントゲイン、終端抵抗側にはNullが現れます。
 今回は26mのエレメントを2本使用し給電点の地上高0.5m、アンテナのトップが5.8m、給電点から終端抵抗までは21mとなりました(立木やエレメントの長さの関係で中途半端な数字となっています)。

 -TDDFアンテナの特性(DFアンテナと比較して)-
図2 DFアンテナとTDDFアンテナのシミュレーション結果
 DF(Delta Flag)アンテナとTDDFアンテナの特性の違いをアンテナ解析ソフトMMANAでシミュレーションしました。図2に1200kHzでのDFアンテナとTDDFアンテナの計算結果を提示します。
 アンテナ特性を計算するにあたってアンテナ形状は同じサイズのDFアンテナを2個ならべたものをTDDFアンテナとしました。それぞれのアンテナで最良のFB比が得られる終端抵抗の値が異なるためDFアンテナで470Ω、TDDFアンテナでは1300Ωで計算を行っています。
 計算結果からはDFアンテナではカルディオイド型(ハート型)を呈し半値角は160度。対してTDDFアンテナではウチワのようにやや両サイドがやや切れるようなパターンとなり半値角も100度と指向性が鋭くなります。
 またTDDFアンテナで打ち上げ角がDFアンテナの37度から30度と低下し、FB比が19.5dBから22.8dBと改善しています。
 利得の面ではDFアンテナの-37.4dBiに対してTDDFアンテナは-46.6dBiとさらに約10dB低下します。アンテナ面積は2倍になるので利得が増加しそうなものですが位相が打ち消され指向性が向上する反面絶対利得は低下するのでしょうか。

-実際の架設状況-
 図3 TDDFアンテナ給電部から
図4 TDDFアンテナ終端抵抗から
 図3、図4に今回のびわ湖ペディションでの架設状況を示します。宿舎前の湖岸から約50m東北東の松林内に北東(45度)向きに設置しました。
 アンテナの架設には5本の杭が必要ですが、今回は立木や既存の杭を使用したため3本の木製杭(径30mm全長100cm)を打ち込みました。アンテナマストには魚釣用のタモ網の柄(全長6.3m)を使用しました。グラスファイバー製を推奨されますが入手困難(あっても高価なため)で安価(3000-5000円程度)なカーボンロッドを用いています。
 アンテナエレメントが分かりやすいように架設には黒と赤の0.75sqのコードそれぞれ約26mを用いました。アンテナエレメントは地面から少なくとも0.5mは離します。また同軸ケーブルはアンテナ面に対して垂直になるように給電しました。
 終端抵抗はシミュレーターによるとTDDFアンテナで0.8-1.3kΩ前後でFB比が良好となるようで、できれば可変にしたかったのですが時間がとれなく970Ωの固定としました。
 引き込みには5D2Vを75m用いました。同軸ケーブルとアンテナ給電部には16:1あるいは25:1のバランが必要となりますが今回は以前FLAGアンテナ用に購入したWellbrook社のFLG100(無印)を使用しました。
 FLG100(無印)にはハイインピーダンスマッチ回路と利得18dBのトランジスタアンプが内蔵されています。現行品のFLG100LNでは利得23dBのFETアンプへと変更されているようです。

 -受信してみて-
 利得が低いこともあるのでしょうが非常にノイズレベルの低いアンテナです。
 現地で聴いた限りS/Nや信号強度はNsさんの200mビバレージとはほぼ同等、またCOLさんの300mビバレージと比較しても多少劣るものの弱い信号を拾う能力についてはいい勝負をしているとの印象でした。
 一方で差がでたのはやはり指向性の点。1700kHzのESPNの受信時に1650-1710kHzに出ている妨害電波がお二方のビバレージと比べTDDFではより強く入感していました。
 当初心配していたゲイン不足についてはFLG100のおかげで実用上十分なレベルでした。ただしアンプの電源を落とすと18dBの恩恵がなくなりMWからSW全域でかなり厳しい状況となります。
 個人的感想ですがMWからSWローバンドの受信状況を☆で評価すると(ALA1530は昨年春のペディでの使用感)

300mビバレージ   ☆☆☆☆☆ 
200mビバレージ   ☆☆☆☆3/4
TDDFアンテナ      ☆☆☆☆1/2
ALA1530               ☆☆☆

-その他思いつくまま-
 以前COLさんがK9AYアンテナを紹介されて以降一時期EWE、FLAGなどカルディオイド指向性を有するループアンテナに興味を感じていました。その後のペディションでDFアンテナを試したものの期待したほどの効果が得られず一旦は興味が薄れてしまいます。
 転機は今年5月。シエスタ氏が4月に公開されたTDDFの記事の評判を目にしたことです。原本にはお目にかかっていませんが文字通りDFアンテナを一ひねりした形状で皆さんの評判が非常にいい。
 ただしTDDFアンテナで検索してみましたがヒットするのは国内のものばかり。いろいろと調べてみるとどうやらAA7JV氏が2009年に開発されたDHDL(Double Half-Delta Loop)アンテナがそのご先祖様のようで、直接的には2014年にMark Durenberger氏が発表されたDouble-Delta/"D-KAZ"アンテナの類縁にあたるようでした。
  ミュレーションしてみると2本のFLAGアンテナをアレイにしたような指向性で、混合器や大きな設置場所を必要とせずアンテナ形状の変更だけでその特性を得られるとのことでいつかはチャレンジしてみたいと思っていました。
  以前DFアンテナを試した時にはビバレージとの格の違いを感じていましたが今回経験したTDDFアンテナでは受信性能、特に弱い信号を拾い上げる能力についてビバレージアンテナにせまる特性があるように感じました。利得が低いことと指向性が鋭くなったことがノイズ軽減に一役買っているものと考えられます。
 ビバレージアンテナの性能についてはみなさんの異論のないところだと思いますが設置に要する敷地の問題があり日本で使用しようと思っても場所やビーム方向にかなりの制約が出てきます。この点でTDDFアンテナではサイズもコンパクトで設置場所の制限が緩和され、またビーム方向の自由度も格段に上がります。
 ただ今回の経験で気になる点もあります。湖岸の限られたスペースにビバレージを含め3本のアンテナを架設したためTDDFアンテナの終端抵抗近くを300mと200mの2本のビバレージアンテナが通過していたことです。ビバレージの干渉によりTDDF本来の性能以上に過大に評価されている可能性も否定できないからです
 今後のペディションではビバレージのアンテナエレメントを意識した設置場所の選定、混信局を避けるビーム方向の検討や終端抵抗の可変化などに取り組んでいきたいと思います。

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